学者も大変だ。

今日昼間、語り出すと大爆発し、その名言の数々がいくつもTogetterにまとめられている屋代聡氏が「日本史をまともに知りたければこういう本を読め」みたいなツイートをしたためていた。どこぞの書店員あたりが「これならこういうのも」みたいな横槍を入れるのを待っていたのだが、なんか入らずしょぼくれてしまった。
ぶっちゃけおいら、大学で専攻したのは地理学であり、しかも中退してしまっているので、全国の大学を見てもそれなりのレベルのところにしかない「史学科」の常識に対しては口を挟めるだけの素養がない。それでも「あーこれは読んだな」という本が出て来ることに正直、ほっとしていたりもする。なのでせめて、一連のツイートで挙がった本の著者たちの解説くらいはさせてもらおうかなー、と。
最終的に佐々木中氏が挙げた三者網野善彦石井進、黒田俊雄は主に日本の中世史をやった人。単著として本屋で手に入るのは圧倒的に網野善彦が多く、これは大手出版社が出して来た「日本の歴史」シリーズでもかなり後になって出た講談社版を仕切り、「日本とは何か」でまとめた日本論が今でも尾を引いているのだろう。講談社学術文庫で「日本の歴史」はひととおり文庫化されている上に、他の著作もかなり網羅されている、岩波新書にも単著本が入っている。彼自身はそれぞれの時代の支配層による史料しか認めなかった歴史学にかなり風穴を空けた人で、日本民俗学的なアプローチのおかげでずいぶんおいらもお世話になった。
石井進網野善彦と結構交流があった上に共著もいくつもある。こちらは中央公論社版「日本の歴史」の七巻(鎌倉幕府)を担当している、やっぱり日本中世史での業績が有名。しかし単著本で現在手に入るものは案外少なく、トーハン(取次会社のひとつ。出版社と書店の間に入って書籍流通を請け負う)在庫を見てみると前述の「日本の歴史7」が中公文庫で入手可能な他には平凡社ライブラリーに「鎌倉武士の実像 合戦と暮しのおきて」、講談社学術文庫に「中世武士団」、ちくま学芸文庫に「米・百姓・天皇 日本史の虚像のゆくえ」がある他は2000円超えの研究者向けが多い。「日本の歴史」を読んだ印象で言えばたぶん、ここで挙がっている三者のうち最も読みやすい文章を書く人なので、これはややもったいない。
黒田俊雄も日本中世史の人。おいらの中では代表作は「王法と仏法 中世史の構図」になっていて、なんというか、中世の支配層において仏教が果たした役割を根源的に見直した人。南北朝を調べてて、日蓮宗南朝の関わりが不思議だった頃、読んで「ああ!」となった記憶がある。「王法と仏法 中世史の構図」は文庫化されていないが、これは是非オススメ。中公版「日本の歴史」の8巻(蒙古襲来)も書かれており、これは文庫化されている。ただ、この人の多くの著作が今や絶版になっているか、出版社在庫のみ(注文するとかなり待たされることが多い)なので、入手には本屋よりAmazonの方がよさげ。
屋代氏自身のツイートで挙がっている「和田、門脇、森、猪熊、岸」は、勉強不足ゆえ確信は持てないが和田萃、門脇 禎二、森浩一、猪熊兼勝、岸俊男であろうか。どれも古代史の学者で、日本という国の成立について多くの論考がある。正直おいらは日本とは何か、みたいなテーマとは無縁な人間なので大変心許ないが、竹田という人がアホなこと言ってるのをひっくり返すのにもこういう人たちの研究をしっかり踏まえなければならないくらい、日本の歴史常識というのはめんどくさいことになっているということ。
学者も大変だ。