「ヘイト騒ぎに巻き込まれちゃった系」

なーんか最近、週末街に出ると日章旗振り回した変なデモやってるなあ、みたいな人は多いんだと思う。「あれ何やってんの?」と素朴な疑問の方もまだいらっしゃると思う。それについては下手な長文でズラズラ説明するよりこれ見た方がよろしい。

書き起こしはこちら。
NHK クローズアップ現代
後半に行くにつれてサイレントマジョリティとかコミットとか、ちょっとムズムズする内容になって来るけど、「あの変なデモ」がどういうものかはこれで知れると思う。
でも、これだけだとなんかやっぱり遠い話にしか思えないと思うんだ。大抵の人には。しかしどんな人でも思いがけないかたちでこの世界に巻き込まれることは有り得る。今日はそんな話。
例えば書店員だったオレのケース。
2005年の「マンガ嫌韓流」以降、「中国韓国を笑いものにしよう」という趣旨の本、歴史認識を捻じ曲げて「太平洋戦争は正しい戦争だった」ということにしたい本が増えて来た。人文書担当だった自分はそんなもの触るのもイヤだったからさっさと返品したかったが取次他との仁義もある。結局会社にダダをこね、職を失うきっかけになった。俺みたいな直行バカと違い、今でも良識ある書店員は棚の置き方に工夫したりとさまざまな方法でヘイト本の跋扈に対抗している。いずれ「ヘイトデモなんかと関わりない書店員」だったはずの自分らは、本の力を信じる者としてあのようなデタラメヘイト本を放置するわけにはいかなかった。
その流れとして「日の丸街宣女子」というマンガのことにも触れておく。作者は手塚賞受賞の商業漫画家だが、同時に上動画に出て来るヘイトデモの常連。「朝鮮人はみんな死ねー!」とか叫んでる側から「あのデモ」界隈のことを描いたのがこのマンガだ。新興宗教の街頭勧誘におもしろがってついて行くと変な絵本みたいなのを見せられて自分らの神様はいかに偉いか、という説教を食らうが、感じとしてはその絵本に近い。そういうものを「表現の自由」を盾に全国流通に乗せてしまったのがこのケース。トキワ荘通協働プロジェクトという市民団体の「紫雲荘ワークショップ」という企画でこの作者を招くことになっていたが、猛抗議を受け中止、という事件が起きている。
そして鳥肌実のこと。鳥肌実は右翼の街頭演説、三島由紀夫の自決事件などのパロディをやるまあ一種の芸人。出て来た90年代は時代の空気もあり完全に「芸」でいられたが、世相が殺伐として来るにつれその芸風に不快感を覚える者も増え、ヘイトデモに駆け付けてパフォーマンスしたり、在特会との繋がりが明らかになるにつれ、完全に「ヘイト芸人」と化した感がある。先月彼の九州ツアー日程が明らかになったとき猛抗議が湧き起こり、いくつかのハコはキャンセルを申し出ることになった。
他にもあるけど、とりあえず「ヘイト騒ぎに巻き込まれちゃった系」の事例が三つ。当然今後増えて行くことになる。差別扇動表現をめぐる人々の動きが止まらない限り。
だから、こんな目に遭ったらあなたならどうする?というのをここらで一度、考えてみて欲しいわけ。
なんだかんだで自分ら「仕事で」そういうのに関わってるわけだから、「より食える」「より儲かる」方を選びたい、というのは自然ではあるよ。ただ、例えば書店にヘイト本が溢れたおかげで「これ普通なんだ」と錯覚しちゃった者は絶対いるし、彼らがやっている差別扇動、差別行動がもたらす結果は最初の動画の通りだ。悪い言い方をすれば「死の商人」的な儲け方をした、とのそしりは免れない。
次に鳥肌なり日の丸街宣女子なりヘイト本なりが「それほど叩かれなければならないコンテンツなのか」という疑問もあるだろう。しかしそういう疑問があるなら調べなきゃ解決に至れないのはどの仕事でも一緒だし、そこに悲しむ者、被害者がひとりでもいれば、当事者としての我々は一つの決断を突き付けられる。その被害者を「無視して儲けるか」否か、という決断だ。
そんなものは法的に定まっていないのだから、というのも「商売人としては」アリな見地。けどさ、少なくともここに挙がった三例は「コンテンツ」で、今後も「ヘイト騒ぎに巻き込まれちゃった系」はこの分野で起きる可能性が高いわけ。本屋は「本を売る」ことにどのような矜持を持っているか、マンガのセミナーも、ライブハウスも、その矜持が試されるという点で一緒なんだよね。あくまで商売としてやる人もいるだろう。法的には現時点で何も罰せられることはない。ただし、「法に禁止されていないから何やってもいい」というような殺伐とした世界を、コンテンツに関わる者が望むだろうか?これは当事者の良心の問題。
最後に、コンテンツに携わる我らは結局「人気商売」なんだ、という現実ね。トキワ荘協働プロジェクトに知り合いがいるらしい商業漫画家がTwitter上で「やめろ!今すぐ中止しろ!」とメンション飛ばしてるのを見たときオレは感動した。この人は、漫画というものを本当に信じて、愛しているんだなというのがとてもよく分かった。人気商売って、そういうところ凄く大事なんだよね。いろんな職業があって、たとえば介護職がその仕事で社会にコミットできる可能性はほぼない。けどコンテンツに関わる者ってのは違う。そういうところに誇りをもっていて欲しいわけ。
…長々と書いて、うんざりされている人いると思うけど、ひとたび「ヘイト騒ぎに巻き込まれちゃった」時、当事者は必ずこういうこと考えることになるんだよ。ヘイトという現実をきちんと受け止めているのなら。
その上で、考え抜いた上で、それでもヘイトコンテンツ拡散に関与する人もきっといるだろう。決断はその人の自由だが、その決断がもたらすであろう結果(猛抗議であり、ヘイト被害への間接的な関与)も、大人がやってるんだから確信犯と思うのが礼儀だし、そうなれば少なくとも私は猛抗議することになるだろう。
これからこういう目に遭いかねない人、ちょっと長すぎるエントリになっちまったが、どうか事前にしっかりと考えてみて欲しい。ヘイトってのは必ず被害者を伴うという現実と、あなたの矜持とを向い合わせて、最善の方法を自分で考えておいて欲しい。ひとたび抗議が殺到するとどうしてもムカッとするしあなた自身にもダメージを負うことになる。
抗議を仕掛けて来るのはいわゆる「圧力団体」ではない。お客さんであり、ヘイト被害者なんだよ。