祖国

父方の祖父は太平洋戦争でビルマで死んだ。遺骨なんてなく、骨壺には石ころが入っていたという。飯は現地調達(要するに現地から略奪する)、作戦は悪名高いインパール作戦。銃剣ひとつポンと渡されそんな無茶苦茶な世界に送り込まれた祖父の魂は、靖国になんて帰っちゃいないだろうというのが我が家の定説だった。
戦争に行かされて飯も与えられず、人殺しまでさせられて、挙句どんなかたちでかも伝えられないような死に方をさせられた人間が、そういう命令をくだしながらもウマイ飯を食い続け、敗戦まで生き延びた連中と一緒に眠って安らかでいられるわけがない。
今、それなりに社会に揉まれた自分は、誰かのために時には命を賭ける素晴らしい人に何度も出会えている。誰かというのは上司であったり、好きな女の子だったり。命を賭けるに値するなにかをその人に与えてくれた誰かだ。
本当にうつくしいと思う。だからことさらに思う。
情報統制とか洗脳じみた教育でしか祖父に死線をくぐる根拠を与えられいような国家のために、みすみす命を捨てることになった祖父のみじめさ。
せめて、きちんとしたかたちで国民に愛され、この国のためなら命を散らしてもよいと自由意志で思える国だったなら、こんなにみじめではないだろう。
繰り返し書く。祖父の魂は靖国になんか帰っちゃいない。彼が本当に守ろうとした家族の元へ帰ったのだ。戦争でたんまり儲けたエライ人のためなんかに戦っちゃいない。彼らは祖父にとっての祖国ではない。